助言のいろいろ

助言無用の碁の勝負。その中で見物人は助言の上品な表現をいろいろに工夫した。優雅な言葉遊びだ。

 

エヘンとはせきにせよとの碁の助言

かけたかと啼くは助言のてには也

これらはすぐわかる助言。エヘンと咳払いをするのは咳つながりで、「キにせよ」の助言になる。第二句はホトトギスの鳴き声が「テッペンカケタカ」であることに気付けばすぐわかる。「カケてとれ」という助言である。「てには」は「てにをは」で初歩とか基本という意味である。

 

まなばしを後ろへ下げて助言する

五月雨は盤に踏える倦碁(けんご)の足駄(あしだ)

覗いては竹の節いう碁の助言

岡目八目吹がらの助言する

手拭を助言いいいい干して居る

菜箸(まなばし)を下向きにもつのは「サガレ」のサイン。第二句は五月雨というのは「アシダ(ゲタよりやや広いカケ)」にかけてとれという助言だの意。第三句、第四句は「タケフ」に継げという助言。吹きがらはきせるで吸ったたばこの燃えかすで竹筒の灰吹き(吐月峰)に捨てる。第五句は手ぬぐいを絞って干すので「シボレ」とう助言。

 

雷に碁の助言云わさす紙帳(しちょう)賣り

碁の一手助言になりし紙帳売り

ゆかた着て助言いいいいかいて居リ

雷除けには蚊帳の中に入るのが昔の常識。和紙製の蚊帳を紙帳と書き「しちょう」と訓んだ。したがって「雷」というのは「シチョウ」にかけろという助言になる。第二句は蚊帳売りが来たので「シチョウん」の手を思いついたという句意。第三句は蚊に食われて掻いている。蚊帳がほしい、「シチョウ」だとなる。

 

碁の助言きものいれたる小袖ひつ

知らぬ顔小歌に骨のある助言

碁の助言そなたは浜の御奉行かへ

助言の上級編。第一句の「小袖ひつ」は着物入れ。「着物入れ」は「肝入り」と読みかえれば仲を取り持つの意味になる。したがって「小袖ひつ」は「ツゲ」の助言になる。第二句は知らぬ顔で小歌を唄っているの句意だが、当時流行の小歌「からかさ」の文句は「から傘の骨はばらばら紙ゃ破れても離れ離れまいぞえ千鳥掛」でこれも「ツゲ」という助言。第四句の浜の御奉行は浜離宮の管理役を指す。初代浜奉行は伊豆(いず)守永井直敬。したがって「デロ」という助言。

 

袖口をなで消しながら助言いう

そっと突く膝も助言の道具也

袖引かれたばこ輪に吹く碁の妙手

助目くばせ便りに聾打っている

しぐさも助言になる。袖口を撫でるのは出るのを打ち消しているので「デルナ」の助言。膝をつくのははさまを「ツケ」の助言。見物人に袖を引いを注意され妙手に気が付いた。得意げに煙草の煙を輪にしている。最後の句は耳の聞こえない対局者には目配せで助言。

 

助言憎くくも物によそえる

なぞらえて諷(ふう)にうとう碁の助言

岡目四目はめっつかちの助言也

助言は憎いが本当にうまくものになぞらえるものだ。第二句は碁の助言は直接はいえないので他のものになぞらえて唄うようにいう。第三句は下手の助言は目先しか見ていない。岡目四目は四目先までしか見えない未熟な碁打ち。めっかちは近眼の意。

 

助言無用と小便に立つ

助言せぬ碁や風凪(かぜなぎ)の濱千鳥

対局者の一人がトイレに立つ時にいない間に助言をしてはいけないよと見物人に釘をさす。第二句は助言のない碁はないだ海のように平穏だ。