碁気違い

急用が碁盤のそばに二三通

碁にかかり大事の用を打忘れ

碁を打ち始めると夢中になって大事なことをすっかっり忘れてしまう。

 

雁首をくわへて碁盤ねめて居る

碁器と火入と取違へアツヽヽヽ

あつくなる碁打火入れで火傷をし

昔はキセルで煙草を吸った。碁に夢中の碁打ちはキセルをさかさまに咥えたり碁笥と間違えて煙草の火種に指を突っ込み火傷をする。

雁首はキセルの吸い口の反対側で火をつけた煙草を入れる部分。火入れは煙草盆に組みこみタバコの火ダネをいれておく器。

 

碁笥呑ん茶を指挟む宿直守(とのいもり)

とんだ事煮花で碁打火傷する

碁のそばにあつたら喜撰にえこぼれ

さしだして退屈をする碁打の茶

碁に夢中で出されたお茶も上の空だ。徹夜で碁を打って碁笥を間違えて茶碗に指をつっこむ。逆に碁笥を茶碗のつもりで口に持ってくる。また入れたてのお茶で火傷をする。お茶をこぼす。折角のお茶がさめてしまうなとの失態。

宿直守は徹夜で碁を打つ人。煮花は煎じたばかりの茶。あったらはもったいない。汽船は高級なお茶の銘柄。転じて茶そのものをいう。

 

はて留守といえと碁石をざらつかせ

返事のい奥に碁の音

代脈に留守を遣うて二階で碁

碁に熱中したいので居留守を使う図。碁石の音がするのですぐばれる。医者も代診を置いて二階で碁に夢中。代脈は医者の代診。

 

鶏聞いて碁打ちが去ぬれば一昨日こい

楽しみの内は小便一つの苦

岡目ではわずらいそうな碁好達

箒でも灸でもきかぬ長っ尻

最初の句は夜っぴて碁を打っても決着がつかない。碁気違いは「朝になったから碁はこの辺で終りにして帰ろう」などとは決して言わない。勝負がつくまで碁を打つ。第二句は碁を覚えて面白くて仕方がない。小便に通う時間も惜しい。第三句は本当の碁気違いは他人の碁を見ているだけなら病気になってしまう。自分で打たなければ絶対に気がすまない。最後の句は他人の家で長居して碁を打っている。家人は帰ってほしいので箒を逆さに立てたり客の下駄に灸をすえたりいろいろとおまじないをするけれども一向に帰らない。

 

一番と言うたけれどもつい碁盤

番数を遣つて弱らぬ碁淫乱

一番だけだよと碁を始めたがつい五番も打ってしまった。碁盤と五番の語呂合わせ。碁は何番でも打てるがあっちの方はそうはいかない。